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ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉 (新潮文庫)

ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉 (新潮文庫)

というわけでしばらくかかりましたが単行本第8巻相当の部分を読了。
ネロ帝の暗殺から内乱の時代を経てヴェスパシアヌス*1ティトゥスドミティアヌスのフラヴィウス朝、そして五賢帝時代の最初の1人ネルヴァまで。
ローマ史全体で見るとほんとに好きな人以外にも勧められるのが「ハンニバル戦記」(単行本2巻)と「ユリウス・カエサル」(単行本4・5巻)なんですが、それらや「パクス・ロマーナ」(単行本6巻)/「ローマは一日にしてならず」(単行本1巻)に比べるとある意味地味な時代だと思います。実力はあったけど好き放題やったネロのあとに続いた短命政権(政権というのが正しいのかはさておいて)とその後の有名な五賢帝時代へのつなぎみたいな感じのところですし、当時の歴史家(主に挙げられているのはタキトゥス)には散々に批判されている時代ですし。それでも面白いのは、この時代の皇帝たちを当時の評価どおりの人間として書いているのではなくそれぞれの人間性の考察をふまえて描写しているところ。フラヴィウス朝の3代の皇帝たちのそれぞれのバックグラウンドの違い、それからくる人間性と行った政策(とそれに対する考え方)の違いがくっきり描かれていて面白いです。地味っていえば地味な時代ですがそこから垣間見える人間性の機微を楽しむにはよい題材だったと思います。というか単なる歴史小説ではなく「人々を描いた小説」だと作者本人が言ってるだけある。


あとは中巻からですが気になった一節を。ヴェスパシアヌスユダヤ戦役に関連して。

異なる宗教、異なる生活様式、異なる人種であっても、ともに生きていかなければならないのが人間社会の現実である。玉砕は、後世を感動させることはできても、所詮は自己満足にすぎない。ヨセフスは、それに酔うことができなかったユダヤ人の一人なのであった。
塩野七生ローマ人の物語 22 危機と克服[中]』pp.123〜124)

*1:メソポに言わせればラテン語にv音は存在せずuで発音するからウェスパシアヌスが正しいとのことだけど